コロナ禍の冷めやらぬ中、2月4日から開催されている北京オリンピック。
みなさん楽しんでいるでしょうか?
本記事を執筆している筆者は部屋にテレビがないので、あまり北京オリンピックの情報を追うことができていませんが、〇〇〇〇での勤務終了後に乗る南北線の電車の中で、日本人選手の活躍のようすを調べることが日課になっています。
そんな中、このようなニュースを目にしました。
スキージャンプでメダル獲得の大きな期待を寄せられていた高梨沙羅選手が失格になった、と。
北京オリンピック以外の世界大会で、出場するたびに好成績を収めていた高梨選手のこのような報道はまさに寝耳に水。私だけでなく日本中が驚いたことでしょう。
また同報道では、高梨沙羅選手はスーツ規定に違反した、ということです。
初めて耳にする方も多いであろうこのスーツ規定。
いったいどのようなルールで、なぜ高梨選手が違反となってしまったのか。
本記事ではそれをできる限り分かりやすく解説していきたいと思います。
目次
「スーツ規定」とは?
スキー競技におけるスーツは、私たち社会人が日常的に着用するスーツではなく、スキー用に選手が身に着けるスーツのことを意味します。私が「スーツ規定」という単語を初めに聞いた時に社会人の方のスーツを思い浮かべ「スキー選手がそれに違反するってどういうこと?」と頓珍漢なことを考えたのは内緒です()。
スキージャンプの選手が身に着けるスーツに関しては、厚さ、大きさ、通気性まで、細かく規定されています。これがいま話題の「スーツ規定」です。
なぜこのように細かく規定されるかというと、スーツがジャンプの飛距離に大きく影響してくるためです。
スキーでジャンプを行うと、選手は揚力という、空中での風を受けて発生する力によって飛行します。これは飛行機が空を飛ぶことと原理的には同じです。受ける揚力が大きいほど、その飛距離は伸びていきます。
より大きな揚力を受けるためには、体が空気に触れる表面積を大きくすることが重要です。
そのために、選手は試行錯誤して自身の飛行形を確立していくのです。
しかし極端な話、明らかにサイズの合っていないダボダボのスーツを着用すれば、飛行形を工夫しなくても飛行時の表面積が格段に上がって揚力が増大し、飛距離も格段に伸びるでしょう。
「スーツ規定」は、そういった行為を防ぐために設定されています。
なぜ高梨沙羅選手は失格になってしまった?
高梨沙羅選手は、検査でもも周りのスーツが規定より2センチ大きかったとして失格になってしまいました。
大ジャンプ後の悲劇
高梨沙羅選手の失格が告げられたのは、スキージャンプ混合団体の1回目のジャンプ終了後でした。高梨選手は女子のエースとして1回目に103メートルの大ジャンプを披露し、日本チームに勢いをつけたかに思われましたが、その後このジャンプがスーツ規定違反で失格となってしまいます。失格の報を受け、泣き崩れる姿が印象的でした。
混合団体では4人の選手の合計得点で各国が競い、上位のチームが2回目のジャンプに進むことができます。日本チームは高梨沙羅選手の失格により、1回目を3人のジャンプの得点合計で勝負する事態となりましたが、なんとか上位チームに残り、2回目のジャンプへと進むことができました。この結果には、日本チームの意地を感じることができますね。
高梨選手以外にも出た失格者
スキージャンプ混合団体でのスーツ規定違反者は、高梨選手を含めて5選手、4か国にも及びました。またこの5選手はいずれも女子選手で、男子は全員検査に合格しています。
女子選手のスーツ規定違反者が非常に多く発生してしまったこの事態に対し、検査の手法などについてさまざまな声が上がっています。
抜き打ち検査のタイミングについて
選手に対する検査は抜き打ちで行われます。高梨選手の検査はジャンプ後に行われました。これによってジャンプを終えたあとに失格が言い渡される事態となったのです。これに対しては「検査をジャンプ前に統一するべきではないか」という声が上がりましたが、選手の心身への影響や検査時間などから現実的ではないということです。
検査方法がいつもと違った?
ある報道では、女子選手への検査方法がいつも行われているものと違ったという証言がありました。
また失格になったジャンプで高梨選手が着用していたスーツは、それより前の日程で行われたノーマルヒルにおいて着用されたものと同じだったということです。一つの大会で日によって検査結果が違うのはおかしいと声が上がっていますが、女子の担当検査官は新しい検査の手順は行っていないとしています。
実は珍しくないスーツ規定違反
この北京オリンピックだけでなく、その他の国際大会においてもスーツ規定違反者はしばしば発生しています。
今回の失格者が多いことは事実ですが、失格者が出てしまうこと自体は珍しいことではありません。
なぜスーツ規定違反が起こってしまうのか
選手やコーチも規定に気を使って競技に臨んでいるにもかかわらずしばしば違反者が出てしまうのは、体のサイズを計測するタイミングが原因の一つです。
選手の体のサイズはシーズンの序盤に計測するため、体重や体形の変化などにより計測当時と誤差が出てしまい、規定に抵触してしまうケースが少なくありません。
納得できるルール作りの必要性
今回の女子選手のスーツ規定違反者の続出は北京オリンピックという一大イベントに水を差す結果となってしまいましたが、このような事態を防ぐためには競技に関係する方々全員が納得できるルールを作ることが必要だと思います。
前半で記述したスーツ規定の説明からもお判りのように、スーツ規定の存在そのものは合理的で、なくてはならないルールですよね。
しかし今回の北京オリンピックのようにいつもと検査方法が違うなどの証言が出ていたり、実際に明らかに多くの違反者が出ている場合、何かしらの異常が起こっていることは間違いないでしょう。
少なくとも、高梨沙羅選手を含め違反とされてしまった5選手に対しての説明は不可欠です。